第1章 花輪家のメイドになりました。
世間一般で言うところの春休み。
私は、先輩メイドさんたちから厳しく仕事を仕込まれて、たまに意地悪をされながらも何とか強く生きて――なんてことは、全くない。
いや、先輩方は厳しい。けど、いじめなんてない。めちゃくちゃ優しい。
「楓ちゃん、スイスからチーズが届いたわよ」
「食べます!」
「楓ちゃん、ベルギーからチョコが送られてきたわよ」
「食べますっ!」
「楓ちゃん、ケーキ食べる?」
「食べますっ!!」
めちゃくちゃ甘やかしてくれる。誰も彼も、みんな優しい。
中学までの生活とは一変してしまった。
ここは天国だ。
おかげで、3キロも増えてしまった。
ヤバイ。痩せなければ。支給されたメイド服が着られなくなってしまう。午前用の裾の長いブルーのメイド服は、デザインがちょっとダサめ。午後用の黒いメイド服のほうが可愛くて気に入っている。どちらも、太った体には見栄えが悪いのだ。
「うふふ、私なんてここに来て10キロ太ったわよ」
宮口先輩、恐ろしいことを言わないでください。
従僕――フットマンの方々とも少し仲良くなった。
家のマネジメントをするのが執事、その手伝いをするのがフットマンと言うのだそう。漫画の世界の影響か、主人に仕えているのは皆執事だと思っていたから、男性使用人にも種類があるとは知らなかった。
フットマンは大抵メイドの誰かとデキていて、フリーの人はほぼいないそうだ。
「……まぁ、楓ちゃんに手を出す奴は最低の奴だからね。誘われたりしたら、早めに言うのよ」
15歳という年齢は、どうやらフットマンの恋愛対象からは(強制的に)外れるらしい。成人するまでに、先輩たちの話を聞いて、男を見る目を養っておかなければ、と私は決意を新たにするのだ。