第2章 坊っちゃんは小学生。
「ありがとう、心配してくれて」
坊っちゃんの優しげな視線がぶつかる。笑ってはいない。坊っちゃんは、泣きそうだ。
「やっぱり、寂しいのかな。僕は、思っていた以上に寂しいのかもしれないね」
「……」
「パパもママも仕事だってわかっているんだ。仕事だから仕方ないって。我が儘を言って困らせたくないんだよ。寂しさは一人で乗り越えなきゃいけないのさ」
物分りのいいふりをすることが、坊っちゃんの幸せだろうか。
そんなことはない。
我が儘を言えるのは、子どもの特権だ。
坊っちゃんは日頃我慢をしているのだから、我が儘を言ったって構わないはずだ。構わない、と思う。
「でも、そばにいてほしいと願うのは、我が儘ではないと思います」
「……楓?」
「あんまり我慢しないでください」
坊っちゃんは一瞬呆けた顔をしたあと、笑った。
「ハハハ、ありがとう、楓。僕はねぇ、案外幸せ者だと思うよ」
幸せ者、ですか?
「だって、楓やヒデじい、皆がそばにいてくれる。クラスメイトだって遊びに来てくれる。パパやママがいなくて寂しくても、つらくはないよ」
「そう、ですか」
「うん、強がりでも何でもなくて。楓もそうだろう?」
確かに、親がいなくて寂しいとかつらいとかは思わなかった。それはただ諦めていただけなのだけど。
「……寂しいときはお呼びくださいね。私たちはおそばにいますから」
「うん、ありがとう」
握られた手が熱い。熱くて、優しい。
坊っちゃんは、本当に、優しい。
……ん? 撫で、てますか?
「――にしても、どうしたんだい、この手は」
「え、あ、今日はずっと洗い場にいたので荒れてしまっ」
「ガッサガサじゃないか! いいクリームがあるから、それを使いたまえ」
坊っちゃんは優しくて世話焼きです。
坊っちゃんから外国産の高級そうなハンドクリームをいただいてしまった。「スベスベになるよ」と坊っちゃんは微笑んでいた。
「今度手を繋いだとき、ガッサガサだったら困るからね」
使用人の肌の調子まで管理するのは坊っちゃんの仕事ではないのです。
私は大変情けなかったです……。