第2章 坊っちゃんは小学生。
さくら様たちと少しお喋りをしたのち、すぐに洗い場へ行きお皿やグラスをひたすら洗う仕事をすることになった。新人メイドの私は、そういう仕事のほうが多い。つまり、人前に出るには不十分だという、相澤メイド長の判断なのだ。
仕方がない。
坊っちゃんとさくら様の様子が見られないのは残念だけど、仕方がない。
私はまだ半人前なのだ。
次々に運ばれてくるお皿やグラスを見て、パーティーが終わったことを知る。他のフットマンやメイドは、庭の後片付けをしている頃だ。コック長は、坊っちゃん用のディナーを作るために厨房で作業している。
ずっと洗い物をしていた私の手は、カサカサだ。あとでたっぷりクリームを塗らなければ。
カサカサの手のまま、洗った食器を拭く。カッサカサだ。割れないように気をつけながら、無心で拭く。
メイド長が手伝いに現れたときには、既に食器の半分以上が片付いていた。
「それが終わったら今日は上がっていいわよ」
「え、でもまだ時間は」
「疲れたでしょう。明日は鯉のぼりをしまうから、今日はゆっくり休みなさい」
メイド長は、大人と比べると体力のない私を気遣ってくれている。休めるのは嬉しいけれど、悔しくもある。役に立たないメイドだと言われているみたいで、情けない。
仕事を終えて寮へ戻る。
寮は10畳一間。机とベッドは備え付け。加えて、トイレとバスルーム、そして大きめのクローゼットがある。
私には広すぎる部屋だ。
メイド服は業者が洗濯をしてくれるので、寮の出入り口にある洗濯用のカゴに入れておけば良い。ちなみに、個人的な洗濯物は寮の一階の洗濯機で洗う。3台ある洗濯機を上手に順番で使う感じだ。
メイド服から部屋着に着替えて、ふと窓の外を見ると、坊っちゃんが庭のベンチに座っているのが見えた。
時刻は19時半。ディナーは終わっているようだ。
「……」
仕事は終わった。部屋着に着替えた。
もう、坊っちゃんと関わることは許されない。花輪邸の敷地内であったとしても、オンとオフは線引きしなければならない。
「……」
私は、メイド服を掴んで部屋を出る。業者のカゴに入れるために、部屋を出る。
半人前のメイドは、オンとオフの切り替えが下手くそでも仕方ない、のだ。