第2章 坊っちゃんは小学生。
鯉のぼりが晴天に泳ぎ、風に煽られてたなびく。100匹もの鯉のぼりがバタバタと大合唱をするさまは、雄大で美しい。
「あぁあ、レンゲに料理が乗ってる! オシャレだねぇ! なんだい、コレは!」
「サーモンと真鯛のカルパッチョです」
「かる……ぱ? まぁ、いいや! 一口で食べられちゃうなんて贅沢だねぇ!」
「あ、さくら様、その黒いのはオリーブと言って食べられるものですよ」
「ええ? 飾りじゃないのかい!?」
フットマンやメイドは、違う意味でバタバタしている。何しろ、坊っちゃんのクラスメイトたちが鯉のぼりを観にやってきたので、庭にテーブルを出して立食パーティーを催すことになったのだ。
テーブルにクロスをかけ、花瓶を出し、料理と食器を準備する。ジュースをグラスにそそぎ、配って回る。
バタバタだけど、常に笑顔を崩さない。花輪家使用人の掟だ。
さくら様に穂波様、浜崎様、山田様、丸尾様、長山様など、総勢16名……もちろん、みぎわ様もいらっしゃる。彼らに料理の説明をしながら、給仕する。
「ピザが焼けましたよ」
「わぁ、ピザ!?」
「ピザってなんだ?」
「ぴーざー! ガハハハハ!」
坊っちゃんは庭が賑やかな状態になっているのを、ニコニコしながら眺めている。大変楽しそうだ。みぎわ様がそばにいると微妙な顔をしているけれど、彼女を邪険に扱ったりはしない。紳士なのだ。
「それにしても、すごいねぇ、この鯉のぼり」
さくら様が手羽先を頬張りながら空を見上げている。頷いているのは穂波様だ。
「まるちゃんちもうちも鯉のぼりなんてないからねぇ」
「あたしんちには、たまちゃんちみたいな7段の飾り雛もないよ」
「毎年大変なんだよ、出すのもしまうのも」
穂波様、その気持ち、その大変さ、よくわかります。この鯉のぼりを出すの、大変でした。しまうことはあまり考えたくありません。
「うわぁ、ハマジが腹踊りを始めたよ」
「ひえぇ」
……坊っちゃんも引き気味です。
小杉様はよく食べるし、丸尾様は校外なのに学級委員長風を吹かせているし、みぎわ様は坊っちゃんを追いかけ回すし……でも、坊っちゃんは楽しそうです。
――こどもの日。
坊っちゃんのお父様とお母様が不在の、こどもの日。