第2章 坊っちゃんは小学生。
「さくらくんが来ているなら来ていると伝えてくれたまえ、楓」
「では、次回からそうします。そうしないと毎日ドキドキしてしまいますもんね、坊っちゃん」
「楓っ!」
坊っちゃんの部屋で説教されている。
真っ赤になった坊っちゃんをからかうのは、非常に楽しい。表情がくるくる変わって面白い。
ただ、私は使用人。やり過ぎてはいけない。怒らせたり、悲しませたりするのは、違う。
「……失礼いたしました、気をつけます」
下を向いてシュンとしてみせると、坊っちゃんが慌てて「すまない、言い過ぎた」と謝ってくる。
坊っちゃんは、優しすぎだ。
そして、「私」を知らなさすぎる。
下を向きながら、私は舌を出している。演技派なのかもしれない。
「大丈夫です。私が悪いので……では、失礼します」
「楓」
つん、と背後から服を引っ張られる感覚。坊っちゃんが私のスカートのあたりを引っ張って、引き止めている。
「……坊っちゃん?」
「……いいんだ、楓は悪くない。さくらくんのことになると、なぜか僕に余裕がなくなるのが悪いんだ」
「……」
いや、どこからどう見ても私が諸悪の根源だと思います。坊っちゃんに落ち度はありません。
なのに、坊っちゃんに謝らせてしまった。私は最低のメイドだ。
「……楓」
「はい」
「もう少し、そばにいてくれないかい? 僕には今まで軽口を叩き合えるお手伝いさんがいなかったんだ。楓だけが僕に遠慮しなくて、居心地がいい」
つまり、メイド失格ってことですね。主人と使用人の関係じゃありませんもんね、それ。
ほんと、すみませんでした……! 年齢が近いと思ってちょっと調子に乗りました!
「私には何も……学はありませんし、坊っちゃんに不愉快な思いをさせてしま――」
「楽しいよ、楓と話していると」
主人に背を向け、失礼極まりない状態なのに、ちょっとだけキュンとしてしまう。
「だから、さくらくんが君に懐いている理由がよくわかる」
坊っちゃんの中では結構「さくら様の基準」が大きいようですね。
「……では、あと少し、お話しを」
きっと、さくら様と同じことを感じたいのですよね。私を通して。
振り返らなくてもわかる。私の主人は、きっと笑顔だ。可愛らしい、笑顔なのだ。