第2章 坊っちゃんは小学生。
「坊っちゃん、あの」
邸宅の部屋でチャイを飲みながら椅子に座っている坊っちゃんに声をかける。インド哲学の勉強は終わったようだ。
「やぁ、楓。どうしたんだい? 今日は休みのはずじゃあ」
「お休みだったのですが、外出時に『彼女』とお会いいたしまして」
――彼女。
坊っちゃんは慌てて人払いをする。秀治さんまで部屋の外に出される。何ともわかりやすい。
そして、坊っちゃんに、さくら様とおじい様とお会いしたこと、みつやでのことを詳しくお伝えする。
「さくらくんはライスチョコ、というものが好きなのかい……ライスチョコとは、どんなものだろう。想像がつかないな」
「と思いましたので、買ってまいりました」
坊っちゃんが駄菓子に詳しいわけがないと思って先に買っておいてよかった。危ない、危ない。夕飯にベルギー産のチョコがかかるところだった。
包みを開けて、坊っちゃんはライスチョコを口にする。そして「なるほど」と頷く。
「米菓子をチョコでコーティングしてあるお菓子か……結構美味しいね」
坊っちゃんが駄菓子の美味しさに目覚めることは期待していない。けれど、庶民の味を理解するには、百聞は一見に如かず、なのだ。
「あと、こちらは私からのプレゼントです」
「へえ?」
「宝石ほどの価値はありませんが、こちらも有名な駄菓子です」
坊っちゃんが包みを開けて、中身を口に放り込む。瞬間、口の中でドンパッチがハジケた。
「!!?」
坊っちゃんが助けを求めてこちらを見てくる。
ですよねー。事前情報ナシだと、そうなりますよねー。
「楓!? 何だい、これは!」
「ドンパッチという、ハジケるお菓子です」
「ハジケる? 確かにハジケていたけど! 口の中がパチパチするよ!」
そういうお菓子なんですよ、と笑う。坊っちゃんの慌てふためく姿が、何となくおかしい。
「楓、君って人は!」
「面白かったですか?」
「まぁ、確かに興味深いお菓子ではあったけど、僕はライスチョコのほうが好きかな」
私もです。
「初めてのお給金を、坊っちゃんの今の表情を引き出すために使っちゃいました」
「もう、本当に……!」
坊っちゃんと顔を見合わせて笑う。
悪くないなと思う。こういう生活も悪くない。悪くないなぁ。