第2章 坊っちゃんは小学生。
みつや。
私も昔はなけなしのお小遣いで駄菓子を買った。フエラムネもキャベツ太郎もうまい棒も、大好きだった。
さくら様はライスチョコを手にしている。お目が高い。私もそれは大好きだ。
「楓お姉さんは何を買うの?」
「さくら様と同じライスチョコと、ドンパッチを」
「え、楓お姉さん、ドンパッチが好きなの!? 変わってるねえ」
「そうですか? 口の中で弾けて美味しいじゃないですか」
みつやのおばあちゃんに代金を払う。私とさくら様の分。
「楓さん、まる子の分はわしが支払いを――」
「いいんです。初めてのお給金、さくら様のために使わせてください」
おじい様の申し出をやんわりと断る。坊っちゃんの情報が得られるなら、ライスチョコ一つ分の値段なんて可愛いものだ。
「わぁ、ありがとう、楓お姉さん!」
「その代わり、また私に会いに来てくださいね」
「もちろん! 行くよ、行くよー!」
正確には、「坊っちゃんと私に会いに来てくださいね」だ。私がメインではない。私は添え物みたいなものなのだ。
「ねぇ、楓お姉さん」
帰り道、さくら様が私を見上げてきた。
「あたしと喋るときはそんなに堅苦しい話し方じゃなくていいんだよ?」
「えーと……嫌ですか?」
正直に言うと、私の敬語はまだまだだ。うっかり普通に喋ってしまいそうになるのを、じっと我慢しているので、気合いを入れるためにも敬語があったほうがいい。私の鎧みたいなものだ。
「ヤじゃないけどさあ」
「まる子、あんまり楓さんを困らせては」
「なぁんか、友達なのに寂しいんだよねぇ」
友達なのに寂しい?
さくら様は、私を「友達」だと思っていらっしゃる?
「タニンギョージにされると寂しいじゃん?」
「他人行儀じゃよ、まる子」
「わかった。じゃあ、外で会うときは、敬語なしで構わない? まるちゃん」
さくら様はパアと顔を輝かせる。「さくら」に「もも」、その花がほころぶように、可愛らしい笑顔を見せてくれる。
「ありがと、楓おねーさん!」
「こちらこそ、まるちゃん」
その日、私には小さな友達ができた。