第2章 坊っちゃんは小学生。
花輪家の使用人の休みはほぼ週二日。1ヶ月ごとのシフト制だ。
正社員のフットマンとメイドは上手に休みを取る。付き合っている二人の休みを合わせることもあるようだ。宮口先輩とフットマンの坂下さんが、いつもそんな感じだ。
メイドの中にはパートの人もいて、田中さんがそう。パートの人は土日は休み。
……秀治さんは基本的に土日が休み。土曜日はたまに邸にいるけれど。
そして、私は、大抵土日は出勤している。土日祝日は休みたがる人が多いからだ。だから、私は平日に休みをもらうことが多い。
だから、平日の午後にこうなることもある。
「楓お姉さん!」
呼び止められて振り向くと、おかっぱのさくら様と、その手を取る老人の姿があった。さくら様のおじい様だろう。
「楓お姉さん、今日はお休み?」
「そうなんです。さくら様はおじい様とお出かけですか?」
「そう! 今からおじいちゃんとみつやへ行くんだ!」
みつやは近所の駄菓子屋だ。小学生にとっては夢の空間。私はもう駄菓子よりパフェのほうが好きだけど、ウキウキになる気持ちはよくわかる。
「楓お姉さんは、大きな荷物だねえ」
「色々買い物をしてきたんです」
春休みの3月分の給料が出たので、服や化粧品などを買い揃えたのだ。今までの小遣いとは桁違いのお金を手にして、ちょっと買いすぎたかもしれない。自由に欲しいものを買うことができるのは幸せなことだけど、責任も発生する。使い過ぎないようにしなければ。
「まる子や、こちらのお嬢さんは?」
「花輪クンちのお手伝いさんだよ!」
……お嬢さん……! お姉さんより、くすぐったい響きです。
「いつもまる子がお世話になっております」
「こちらこそ、お世話になっております」
丁寧に挨拶されたので、私も頭を下げる。
なるほど、このおじい様に大切に育てられてきたから、今のさくら様があるのだなと思う。坊っちゃんと秀治さんと同じだ。
「楓お姉さんもみつやへ行くのかい?」
「まる子や、お姉さんはみつやへは――」
「あ、行きます、行きましょう」
パフェもいいけれど、久々に駄菓子屋へ行くのも悪くない。
さくら様と手を繋いで、私も一緒にみつやへ向かった。