第2章 坊っちゃんは小学生。
「あ、まるちゃん!」
おさげでメガネの可愛らしい穂波様が、ドアの前に立ち、さくら様を出迎える。どうやら心配して出てきてくれていたようだ。
「たはは、迷っちゃったよ」
「花輪くんち、広いからねぇ」
「それでは失礼いたします」
さくら様がお友達にも会えたので、私の出番はここまで。そろそろ戻らないと田中さんからまた叱られる。叱られるのは嫌ではないけれど、毎日叱られるとちょっとヘコむ。
「あ、お姉さん!」
さくら様から呼び止められて、振り向く。さくら様は「名前! 名前!」とジタバタ慌てている。
「お姉さんの名前を教えとくれよ! 花輪クンじゃなくて、お姉さんに取り次いでもらわないといけないんだもん!」
「それもそうですね。私の名前は三島楓です」
「楓お姉さん! わかったよ! ありがとう!」
素直で物怖じしない小学生は何とも可愛い。二人が部屋の中へ消えたあと、ヘラリと笑ってしまう。
小学三年生……坊っちゃんよりも背の低い女の子二人は、本当に可愛らしかった。
施設にいた小学生たちは、親からの愛情に飢えているせいか、構ってもらいたがったり、悪戯をしたり、そういう度合いが酷かったから、何だか「普通」の小学生を見ると安心する。
「ねぇ、ちょっと!」
強い口調で呼び止められて、ビクと肩が震えた。振り向いた先にいたのは、般若のような形相のみぎわ様だ。ビックリした。
何か粗相をしただろうかとドキドキしながら用件を伺おうとすると。
「あたしもお手洗いへ行きたいの、案内しなさいよ!」
使用人を漫画のように正しく「使用」する人物に、初めて出会った気がする。坊っちゃんですら「使用」している実感などないだろうに。
「ねぇ、聞いているの? 早くしてよ、漏れそうなのよ!」
みぎわ様の顔から切羽詰まっている状況はわかった。使用人室に戻るのはもう少し時間がかかりそうだ。
お手洗いへ案内したあと、彼女にも坊っちゃんの様子を聞いて――少し後悔した。
「花輪クンは本当に素敵なの! 白馬に乗った王子様みたい! きっと別荘では乗馬を楽しむんでしょうね! お金持ちなのに、それを自慢することもないし、ひけらかすこともないの! やっぱり花輪クンの人柄が――」
田中さんからは、きっちり、叱られた。