第8章 第7章 接触
桃花はまさかあと笑った。
「昴くんだけだよ」
付き合った男なら何人もいた。キス
以上のことはしなかったが、何度も愛
を囁きあったことならある。
けれど、自分から好きと好意を伝え
たのも、こんな幸せな気持ちを抱くの
も昴が初めてだった。
何度でも言う。何回言ったって足り
ない。
たとえこの好きという感情の意味が
友情でも、恋でも、自分でもわからな
くても。
伝えたいと思った気持ちを押し込め
とくつもりはない。
桃花は通話を切ると、スマホをポケ
ットにしまった。
改札を通って駅のホームに向かう。
ホームには仕事帰りの会社員や遊び
の帰りであろう中高生がちらほらとい
た。
桃花はホームに設置された椅子に腰
掛けて電車を待った。
数分後、電車の到着を知らせる機械
放送と甲高い音がした。
桃花は黄色い線の内側に立って、電
車が止まるのを待つ。
キキーッと耳の痛くなる音が響いて
電車が止まった。
降りる乗客を待ってから桃花は電車
に乗り込む。
その時、すれ違うように降りてきた
乗客のひとりが囁いてきた。
「───はやく思い出してね」