第8章 第7章 接触
また、こんな悲しい過去があったと
いうことを覚えていてほしい、という
ことだった。
鋭い生徒や幼少期に虐待を受けてい
た生徒はすぐにそれを察した。
桃花は頭が鈍いというわけではなか
ったが、かといって切れるほとでもな
かった。
幼少期は蝶よ花よと過保護ともいえ
る環境で育っていたので、先生方のそ
んな思惑など知る由もない。
桃花にとっては顔も名前も知らない
人たちの話だ。
感情移入などできなかった。
ただ、こんな悲惨過去があったなん
てと、どこか他人事のように感じてい
たのを覚えている。
「私、昴くんのこと大好きだよ」
その好きはどういう意味の好きなの
だろうか。
昴はどきどきしてしまう。
「それは、どうも……」
何とか冷静を保ちながら、そっと手
を取り戻す。
「……そろそろ、帰ったほうがいいん
じゃないか」
「そうだね。今日はありがとう。また
食べさせてね、昴くんの手料理」
桃花は立ち上がり、律儀に頭を下げ
た。
「またいつかお邪魔してもいい?」
「ああ」
「やった! じゃあ、また明日」