第8章 第7章 接触
昴の指摘に桃花はきょとんとなった
が、すぐに笑って首を振った。
「大丈夫だよ。昴くんは不埒なことは
しないもん」
妙に信頼されているが、やはり楽観
的だ。
そう言おうと昴が口を開いたのを遮
って、桃花は邪気のない眼でこれまた
邪気のない声音で言った。
「それに、昴くんは童貞だからそんな
勇気ないでしょ?」
昴は低く呻いて額を抑えた。否定し
ようにも事実なのでできない。
「だから、大丈夫」
そう断言して桃花はこぼれるような
笑顔を見せた。
その笑顔にどきりとしながらも、昴
は呆れたように桃花を見下ろし
た。
「食べて文句言うなよ」
桃花は眼を丸くしから、悪戯っぽい
眼を向けた。
「文句が出るような料理は作らないで
ね」
ふたりはそれから買い物を済ませ、
昴の家に向かった。
桃花は築50年近くの雨風など防げ
そうにないぼろぼろのアパートを見て
愕然とした。
コンクリート性の無骨な造りに、隅
には蜘蛛の巣が張られた『曰く付き物
件』にすらみえる建物。
壁に空いた穴から鼠が出てくるのを
見たときは驚きを通して呆れた。