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Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)

第10章 天と地の時間


 ヒルドルの意識は 「道」 の世界にいた。
 また、体が勝手に動かされる。
 また、ライナーを殺すために走らされる。

 (……やめて)

 彼女はその暴力を止める手段がないまま、巨人の視界を通して戦場を見つめるしかなかった。
 だが、ふと——

 「やめろ、やめてくれ……ッ!!」

 彼の声が、耳に届いた。
 ——ライナーが、泣いていた。

 道の世界で、彼女は顔を上げる。
 目の前には、ひとりの少女。
 砂漠に立つ、ぼろぼろの服をまとった金髪の少女。
 始祖ユミル。
 無表情のまま、ただ静かにヒルドルを見つめていた。

 (この子が……)

 この子が、私をここに縛りつけているのか?
 この子が、私に「鎧の巨人」として 再びライナーと戦うことを強要しているのか?
 ヒルドルは静かに目を伏せた。

 (お前は……何を思っている?)

 答えはない。
 彼女は 道の世界に縛られ続けた「奴隷」 だ。
 そして、ヒルドルは その意志を継がされる亡霊。

 ——ライナーを守らなければ。

 あの子を、戦士にしたのは私だ。
 戦い方を教え、心を支え、手を引いて市場を歩いた。
 私は あの子に誇れる戦士でありたかった。

 (ならば……)

 ならば、今もそうであるべきだろう。
 私は ライナーと戦うためにいるのではない。
 ヒルドルは目を開いた。

 「……始祖ユミル」

 初めて、ヒルドルは 彼女の名を呼んだ。

 「私はお前の奴隷じゃない」

 始祖ユミルが微かに目を見開いた。

 「私の人生を、お前に預けた覚えはない」

 ヒルドルの周りの砂が、ふわりと舞い上がる。

 「私を動かすな。私は、私の意志で動く」

 その瞬間——
 現実の戦場で、ヒルドルの巨人が動きを止めた。
 ライナーの巨人が構えを取る。
 だが、ヒルドルの巨人は 攻撃しなかった。

 「……?」

 ライナーが動揺する。
 その様を見て、ユミルが表情を変えぬまま、じっとヒルドルを見つめる。

 「私はもう、誰かに操られるのは御免です」

 ヒルドルの声が、道の世界に響く。
 ライナーの巨人が、まるでそれを見守るように 動きを止めた。
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