Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第10章 天と地の時間
頭の中で抗いがたい声が響く。目の前の巨人を粉砕せよと叫ぶ。
それは無慈悲な声だった。あまりに、辛い指令だった。
ライナーに食われた時点でどうして私の人生は終わってくれなかったのか。ユミルの民がどういう存在なのか、知るはずもなかった私を。
ヒルドルは自分の意思を全く無視して暴れまわり体を崩れさせていく巨人を恨んだ。勝てるはずもない特攻に殉じさせようとするユミルを憎んだ。
「ライナー!」
背の高い青年が叫びながら何か武器を放とうとする。
その放たれた投げ槍のようなものは寸分の狂いなくヒルドルの顔面に突き刺さり、雷鳴のような音と共に彼女の顔を爆砕した。
悲鳴のような咆哮が劈き、ヒルドルの巨人はバランスを崩して転倒する。
「だから……」
現実のライナーの巨人はこちらに手を伸ばしてくる。それはまるで、咄嗟に彼女を抱きとめようとするかのようだった。
道の世界でヒルドルは目の前のライナーに微笑んだ。
「私を踏み潰して、前に進みなさい」
轟音と共に彼女は骨の隙間へと落ちていく。
鎧の巨人の咆哮はまるで、かつての恋人カルメンを手にかけたホセのようだった。