Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第10章 天と地の時間
強烈な熱風が駆け抜けた。そして、その熱さに驚いた。それはつまり、私が生きているということだ。
驚いて目を開くと、それが巨人となった時と同じ感覚であることに気づく。視界を巨大な目に繋いでいるそれと同じだったからだ。
辺りを見回そうとする、しかしできない。そこにヒルドルの意思はない、勝手に体が駆け出し、跳び、襲い掛かるのを彼女はただ視界に移すことで認識することしかできない。
声なき声が頭の中でヒルドルを操っているようだった、いや実際そうなのかもしれない。彼女は混乱しながらもただただ視界からの情報を処理しようと努める。
そこは彼女の記憶にある何処でもない場所な気がする、そもそも地面じゃない。まるで巨大な化石のダンジョンのような……いや、動いている! 化石と思った骨の巨大なオブジェはまるでムカデのように歩いていた、その背骨を駆ける鎧の巨人ヒルドルは、ついに彼と邂逅する。
これは夢ではないと彼女は確信した。鎧の巨人はひと世代に一人……彼が鎧の巨人となった姿をヒルドルが見られるはずもないのだから。これは現実なのだ、彼女は何らかの理由で時空を超えたのだ。
その視界とは別に、あの夢の世界と思っていた場所でヒルドルとライナーの対話は続いていた。
「ごめんなさい、ライナー」
ヒルドルは声を震わせた。
「お前とこんな再会をすることになるなんて」
ヒルドルの巨人が拳を振りかぶり、そして振り下ろす。同じ硬度の巨人の皮膚が衝突し、そして両方が亀裂を作る。ライナーの巨人が咆哮するのを、彼女はどこか額縁の向こうを眺める思いで聞いていた。
一面の砂漠で向かい合い、精神だけの二人が言葉を交わす。現実では力でぶつかり合う。
「引いてくれ、アンタを傷つけたくない」
ヒルドルは歴代最弱の鎧の継承者、その自覚はある。鎧こそ纏えど、その力はライナーのそれに大きく劣るだろう。
彼にこそこの力を譲るべきだと考えたのはこれだ。性根の優しい彼にこそ、鎧を従えてほしかった。
「できない」
ヒルドルは苦し気に喘いだ。
「できないのです、ライナー」
再びヒルドルの巨人がライナーへと襲い掛かり、爆音と共にその腕が弾け飛んだ。
「ユミルが私を許してくれない」