Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第10章 天と地の時間
それはまるで、長い長い夢を見ていたようだった。微睡んだまま幾星霜も過ごしていたようだった。
ヒルドルが目を覚ました時、彼女はそんな錯覚を抱く。
私はあれからどうしていたのだろう? 最期の記憶はとてもよく覚えている、幼く愛しいあの子の目を絶望に染めて私は死んだのだ。私の鎧を、マーレの守護神を、エルディアの希望を、まだあんなに幼い子供に押しつけて私は死んだのだ。
死んだのを自覚したのにまだ意識が続いているなんて不思議なことだ、巨人に脊髄をかみつぶされてまだ生きているとは思えないのだが。
その場所は非常に静かで、死後の世界としては正しいもののように思えるがヒルドルはその場所を嫌となるほどよく知っていた。ああここは、私がライナー・ブラウンという人間を長い時間をかけて理解しようとした場所だ……てっきりあれは夢の世界だと思っていたのだが案外死後の世界と共通する何かがあるのだろうか?
くるりと辺りを見回す。一面の砂漠に光の柱が立ち上る、不思議な場所。だが不思議とその光の柱に向かおうという気にはならなかった。私はここで、気の遠くなるほどの時間を、しかし意味もなくすりつぶしていくのだろうという確信があった。
「……長官?」
だからこそ、その声が背後から名前を呼んだことはあまりにも信じがたいことだったのだ。
振り返る。そこには、見違えるほどに成長したライナーが居た。少年とはお世辞にも言い難い、大人の男になった彼が。
「ライナー」
「どうしてアンタがいる、どうして……!」
そして世界はがらりと色を変えた。