Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第8章 過ぎ去った時間
ライナー・ブラウンは、綺麗に整えられた軍服に袖を通し、じっと前を見据えていた。
目の前には、戦士としての最後の辞令を受ける場。そこに並ぶのは、自分と同じく選ばれた戦士たち——マルセル・ガリアード、ベルトルト・フーバー、アニ・レオンハート。
「お前たちは本日をもって、パラディ島奪還のための特殊作戦に従事する」
無機質な声が響く。儀式的なものだ。これから始まる長い任務に対し、国家としての正式な命令を与える。ただそれだけの場。
なのに、ライナーの胸の奥には、何かがぽっかりと空いていた。
説明のできない喪失感。
何かを、何か大切なものを、失った気がする。
それなのに、それが何なのか思い出せない。
(何を……俺は……)
それは記憶の隙間に沈んでいた。まるで最初から存在しなかったかのように、影も形もない。ただ、確かに心のどこかが痛む。
だが、ライナーは顔を上げた。
(必ず……故郷に戻る)
この任務を果たし、勝利を持ち帰り、そして——
名前も思い出せない、誰かを探す。
ライナー・ブラウンの新たな旅が、今始まる。