Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第8章 過ぎ去った時間
ライナー・ブラウンは、軽やかな足取りで広間へと足を踏み入れた。遂にこの日が来た。鎧の巨人の継承さえ終われば、名誉マーレ人として母親を収容区から出してやれる。島の悪魔達を殲滅し終えればもっと、例えば──
そこは厳かで、どこか非現実的な雰囲気を持つ空間だった。煌々と灯るランプの光、並び立つ軍人たちの無表情な顔、そして中央に跪く一人の人物——ヒルドル・メニヤ。
彼女の四肢は拘束されていた。舌を噛むことすら許されぬよう猿轡を噛まされ、抵抗の余地すらない。名誉マーレ人統括長官としての誇り高き姿はそこにはなく、ただ「鎧の巨人の継承者」として、犠牲になるためにそこにいた。
ライナーは、その光景を見た瞬間、すべてを理解した。
「……これは、何ですか?」
問いかける声は、震えていた。
彼は知っていた。巨人の力が「食うことで」継承されることは、候補生としての訓練で何度も教えられてきた。それでも——それが、自分にとってかけがえのない人を食うことを意味するなんて、一度も考えたことがなかった。
「ライナー・ブラウン、継承の準備を」
誰かが無機質に言った。ライナーは動けなかった。さっきまであんなに誇らしく、あんなに胸を高鳴らせていたのに。今は、ただ——天から地へ叩き落されたような気分だった。
「嫌だ……」
かすれた声が、唇からこぼれる。
「嫌だ、嫌だ!!!」
小さな体が震え、必死に後ずさる。しかし、後ろにいた兵士たちがすぐに彼の両腕を押さえつけた。
「やめろ! やめてくれ!!」
もがいても、大人の力に勝てるはずがない。ライナーはただ無力に抑え込まれるしかなかった。
そして、目が合った。