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Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)

第8章 過ぎ去った時間


 訓練が休みの日でも、ヒルドル・メニヤは忙しかった。名誉マーレ人統括長官としての業務に追われ、書類整理や報告の確認に奔走する日々。それでも彼女は、時折ライナーを伴って市場へ出かけることがあった。

 「お前も、ただ鍛錬ばかりでは疲れるでしょう。少しは外の空気を吸いなさい」

 そう言われ、ライナーは戸惑いながらも彼女について行った。
 市場は賑やかだった。肉屋の威勢のいい声、新鮮な野菜を並べる農家の人々、甘い焼き菓子の香り。訓練場とはまるで別世界のようだった。

 「お前、何か欲しいものはありますか?」
 「えっ、僕がですか?」

 ライナーは驚いてヒルドルを見上げる。彼女は普段と変わらない冷静な表情をしていたが、どこか柔らかい雰囲気があった。

 「別に遠慮する必要はありませんよ。どうせ、私が持ち帰る食材の買い出しついでですから」

 ライナーは少し考えたあと、店先に並んだパンに目を留めた。

 「……あの、パンが食べたいです」
 「パン、ですか?」

 ヒルドルは少しだけ目を細め、店主に向かって短く注文を告げた。すると、彼女はその場で袋を開け、まだ温かいパンをライナーに手渡した。

 「お前の分です」
 「えっ、でも……」
 「必要な栄養補給だと思いなさい」

 有無を言わせぬ口調だったが、ライナーはその言葉の奥に優しさを感じた。遠慮がちにパンを口に運ぶと、じんわりとした温かさが広がった。

 「……美味しい」
 「そうですか」

 ヒルドルは満足げに頷いた。普段の厳しさとは違う、少しだけオフモードの彼女がそこにいた。
 それからというもの、ライナーは買い出しのたびにヒルドルに付き添うようになった。訓練場では見られない、少しだけ穏やかな彼女の姿。そうした何気ない時間を過ごすうちに、ライナーは気づけば彼女に懐いていた。

 「戦士長、また市場に行きましょう!」
 「毎回付き添う必要はないでしょう」

 そう言いながらも、ヒルドルはどこか楽しそうだった。
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