Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第8章 過ぎ去った時間
「踏み込みがまだ甘い。もう一度!」
ヒルドル・メニヤの冷静な声が、夕焼けに染まる訓練場に響いた。ライナー・ブラウンは砂まみれになりながらも、歯を食いしばって立ち上がる。
今日も投げられた。何度も。何度も。
「はい……!」
腕を震わせながら構え直すライナーを、ヒルドルはじっと見つめた。彼女の指導は厳しく、容赦がない。しかし、その厳しさの中には確かな温かさがあった。
「お前の動きはまだ硬い。力任せに動けば、体の軸がぶれます。体幹を鍛え、重心を意識しなさい」
そう言って、彼女はライナーの腕を取り、そっと正しい構えへと導く。ふとした瞬間に見せる、その丁寧な仕草が、ライナーには姉のように感じられた。
「……はい」
膝に力を込め、もう一度挑む。次の瞬間、ヒルドルの体がすっと沈み、気がつけば彼は再び地面に転がっていた。
「お前は一つの動きを覚えると、それに固執する癖がありますね。相手は毎回同じ動きをするとは限りません。状況に応じた判断力を身につけなさい」
涙がにじむ。何度も倒されて、悔しさと痛みで膝が震える。それでも――ライナーは立ち上がった。
「もう一回、お願いします……!」
ヒルドルはその姿を見て、微かに目を細める。
「いいですね。その根性があるなら、まだ伸びますよ」
そう言って、また容赦なく組み伏せる。
戦士としての訓練だけではない。ヒルドルはライナーを伴い、自身の職務にも同行させた。
「お前が戦士になれば、ただ戦うだけではなく、統率し、報告し、時には判断を下さなければなりません。そのために、この仕事も学びなさい」
そう言いながら、書類の整理や報告書の作成を手伝わせる。ライナーにとって、これは戦闘訓練よりも過酷だった。
「も、もう無理です……!」
べそをかきながら机に突っ伏すライナーを見て、ヒルドルは微笑む。
「何を言っているのですか。投げ技を覚えるのと同じように、知識も積み重ねれば身につきます」
そう言いながら、彼の頭を軽く叩いた。
「お前は、まだまだ伸びます。だから、逃げないことですね」
――その言葉を胸に、ライナーは今日もヒルドルの指導に食らいついていく。