Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第7章 すれ違った時間
ライナー・ブラウンは、再び名誉マーレ人統括長官の執務室へと足を運んでいた。
違和感が消えない。
何かが、胸の奥でざわめいている。
「ライナー・ブラウン、また来たのですね」
長官は穏やかに迎え入れた。彼女は軍服の襟元を整えながら、椅子を勧める。
「どうぞ、お掛けください」
ライナーは勧められるままに腰を下ろしたが、落ち着かない様子で拳を握り込んだ。
「すみません、急に……でも、話がしたくて」
「構いませんよ」
長官は静かに微笑んだ。
ライナーは唇を噛む。
「俺……何かを忘れてる気がするんです」
長官はじっとライナーを見つめていた。
「出立前のことが、ぼんやりしているんです。俺がマーレにいた頃の長官は……あなたではなかった。でも、じゃあ誰だったのかと考えると、何も思い出せない」
拳を握る手が、わずかに震えた。
「思い出すのが怖いんです。でも……でも、思い出したい」
静寂が流れる。
やがて、長官は小さく頷き、一つ一つ確かめるように言葉を紡ぎ始めた。
「……ヒルドル・メニヤ」
ライナーは小さく息を呑む。
「彼女は、私の前任の長官でした」
長官の静かな声が、ライナーの意識に波紋を広げていく。
「そして、彼女は戦士長でもありました」
(戦士長……?)
確かに聞き覚えのある言葉だ。だが、具体的な記憶は浮かばない。
「さらに……彼女は、鎧の巨人の継承者だったのです」
視界が揺れた。
「……嘘だ」
ライナーの声は、震えていた。
「最初から、あなたを鎧の継承者として期待していました」
心臓が強く脈打つ。鼓動が速くなる。
「そして、鎧を託すために──」
長官は言葉を選ぶように間を置き、ゆっくりと続けた。
「……既に、命を落としています」