Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第6章 すれ違う時間
市場は活気に満ちていた。
屋台が立ち並び、行き交う人々の声が飛び交う。焼きたてのパンの香りが漂い、ライナーは何気なく立ち止まった。
(……この匂い)
懐かしい気がする。
ふと、誰かと市場を歩いた記憶が過る。
誰かにパンを買ってもらった気がする。
誰かが市場に連れてきてくれた気がする。
母のような、姉のような——いや、初恋の誰かのような……
誰だ?
考えても、思い出せない。
何かが喉の奥に引っかかったような感覚に、ライナーは眉をひそめる。
(……おかしい)
いつからだ? いつから、こんな感覚を抱えている?
島から帰ってきてから? いや、それよりもずっと前から——
「……っ」
ライナーは無意識にこめかみを押さえた。
答えの出ない違和感が、心の奥で渦を巻いていた。