Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第4章 彼女の世界2
「話が済んだのならお行きなさい、こちらには既に話すべきことはありません」
「了解致しました、上官殿」
仰々しいお辞儀とともに彼は踵を返した。
その背中をヒルドルは怪訝さをモロに表に出した表情で見送る。
彼はマーレ人には自分に対するような態度を取らない。
だが、底を見せることもない。
マーレ人の上層部が彼のことを掴みきれずにいるのを何度も風の噂に聞いている。
そんな彼が、自分にはなぜこんなにも、不敬とも取れる態度ばかりをとるのか。
『マーレに魂を売ったエルディア人?』
そんなことを言えば彼だって同じだし、こちらの事をそう蔑むのはエルディア復権派だけだ。この国に住まう大多数のエルディア人は彼女らのことをむしろ誇りに思っている。
『実力不相応の最高責任者?』
そんなことは彼女が一番、痛い程よく知っている。
身分不相応。
体でも使って媚を売ったのか。
馬鹿馬鹿しい。
自らの質問に唾棄すべきとばかりにヒルドルは心の内で吐き捨てた。
誰がエルディアの女で自らの血統や矜持、名声を穢すような真似をするものか。
一般人ならばそんなこともあるのかもしれないが、権謀渦巻く軍部ではそうもいかない。
彼らは団結などしていない。いつだって、お互いを蹴落す材料を探している。
『私からすれば、飼い主の気を引こうとする小猿のように見えますがね』
あの女部下の言葉だ。
皮肉屋で言葉の達者な女だ。
彼女の言葉が正しく事実を描写しているとすれば一番手っ取り早いのだが、果たしてどうだろうか。
今はまだ、わからない。
わからないことは深く考えない。
それがヒルドルの長所であり、短所でもあるがその点を変えるつもりもない。
傍にある、執務机の黒革の手帳に手をやる。
なんのことはない、日記だ。
『最近夢を見る』
そんな書き出しから始まる手帳。
そこには決して綺麗とは言えない字で様々なことが書き綴られていた。
『夢の中で、私は少年と会う』
『彼はライナー・ブラウンと名乗った』