Ég mun fela þig(進撃の巨人・ライナー夢)
第4章 彼女の世界2
「ではこれで、提出致します」
部下が去っていくのを見届けてから、ヒルドルは口元を隠すように肘を立て指を組んでいたのを止めて椅子の背もたれに思い切り体を預けた。
終わった。
これで彼の処遇はほぼ決まるだろう。
この長かった悩みの時間が無駄ではなかったと思いたいものの、それがわかるにはもう少し時間が必要だが。
それまでは少しくらい休みたいと、その髪を結い上げていた髪紐を一息に外した。
背中の中ほどまで届く金色の髪が緩くウェーブを描き、ぱさりと小さく音を立てて軍服に当たる。
疲れてしょぼしょぼする眉間を左手で指圧しつつ、右手の万年筆を筆立てへと戻した。
ノックが聞こえたのはそんな時のこと。
扉越しのためくぐもる声が、ジーク・イェーガーだと名乗る。
「どうぞ」
扉から入ってくる彼に、ヒルドルは背もたれに預けていた体を早速前のめりに戻してゆるりと腕組みをそのままに肘をついた。
「で、要件は?」
「上からの命令で、それを遂行する前にあんたに報告しようと思ってね」
「命令、とは?」
「ライナー・ブラウンを迎えに行ってくる」
ヒルドルは小さく、しかし明らかな間を挟んで「……そう」と相槌を打った。
目を細め、彼から視線を下に逸らす。
「それだけの報告のために、わざわざここまで?」
「伝えたことは余計でしたかね?」
「……いいえ」
これだから彼女は彼を苦手としていた。
心の底を見透かそうとする言葉と視線。
その二つが、彼は恐ろしい人だと思わせるだけに十分な威力を持っていたから。
彼が小さく揶揄するような響きで、やっぱりと呟くのを視線を落としたまま苦虫を噛み潰した思いで聞く。
「10も20も年下の男がそんなに気になるなんて、案外そういう性癖でもある?」
「口を慎みなさい、イェーガー。少なくとも今はまだ、私は貴方の上司です」
「時間の問題ということは否定しないんですね」
「貴方が地位以外の全てにおいて私に優っているという事実に、今更異を唱えるのも愚かな話でしょう」
「そういう取り付く島もない所、嫌いじゃないね」
「二度目の警告はありません」
口早に交わされる言葉の応酬は、まるで知己の軽口のようだが二人の表情は決してその印象に沿っていない。
ジークは試すようなことばかり言うし、ヒルドルはその全てを切り捨てる。