第6章 葛藤
智くんが『その人』への想いを話してくれた。
智くんはその人を傷つけたと話すけど
傷ついたのはその人だけじゃないよね?
智くんもまだ傷つき続けてるんでしょ?
その人の話をする智くんの表情はとても苦しそうで…
思わず智くんを抱きしめていた…
「翔くん…」
智くんの声が聞こえ、我に返って慌てて抱きついてた腕をほどき智くんから離れようとした。
そしたら、智くんの腕が伸びてきて
再び智くんに抱きしめられた。
「…ごめんね…少しだけ、こうしててくれる?」
抱きしめられ鼓動が高まる…
でも、その事を智くんに悟られちゃいけないんだ。
心を落ち着かせ、わざと明るい口調で話す。
「ふふっ…いいよ謝らないで…
こんなんで智くんの傷が少しでも癒えるなら、いくらでもどうぞ?
減るもんじゃないんだから」
冗談ぽくそう告げた。
じゃないと、智くんは罪悪感を感じるでしょ?
俺の事を利用したと思って…
だから俺も智くんの背中に手を回し、抱きしめてあげた。
これは智くんが望んだ事じゃなく、俺が望んでしてあげてるんだよ?
智くんの傷ついた心を、ほんの僅かでも俺が癒してあげられるなら、こんな嬉しい事はない…
その人の代わりにはなれなくても、智くんの役に立てるなら
いくらでも俺の事使ってくれていいから…
「ありがと、翔くん…もう十分だよ…
翔くんのお陰で俺の道も決まった」
離れていく智くんの顔には笑顔が戻っていた。
智くんがどんな道を選んだのかはわからない。
でもその笑顔が消えることのないように、ずっと願い続けるよ。