第6章 葛藤
「ごめんね、智くん…もう大丈夫だから」
俺の腕の中からゆっくりと離れていく翔くん。
その顔には微笑みが浮かんでいて、何かを吹っ切ったような表情をしていた。
「翔くん…ごめん、結局俺は君に何もしてあげられない」
「ううん、そんなことないよ。智くんのお陰で答えが出た…
ここからは俺の問題だから…俺が何とかしなくちゃいけないんだ…
全部俺から始まったことなんだから」
「翔くん、何か思い出したの?」
「ううん、何も思い出してないよ?
でもね、自分の気持ちはわかったから…取るべき道は決まった。
だから、ありがとう…
智くん、もう悩まないよ」
そう言って笑った翔くんは綺麗だった。
「そっか…それなら良かった」
きっと翔くんはニノを選んだ…
優しい君は、ニノを裏切る事なんて出来ないはずだから。
頭のいい君はすぐに答えが見つけられたんだろう…
俺の事は一時の気の迷い。
ニノと共に生きていく…それが君が幸せになれる方法なんだ。
「ねぇ、智くん。人のことばかり気にしてるけどさ…智くんは今幸せなの?」
「俺?俺の事はどうでもいいよ」
「なんで?俺は智くんに幸せになって貰いたいよ?
智くんはもっと自分の事考えなよ」
「そうだな…もっと早く自分のこと考えられていたら、幸せになれてたんだろうな…
だからいいんだよ。俺のせいで、大切な人を幸せにしてあげられなかった…
そんな俺が、自分の幸せを望んじゃいけないんだ」
そう言うと翔くんは少し驚いたようだった。
「智くん、大切な人いたんだ…」
「いたよ?でも、失ってから気が付いた…
俺が自分の気持ちに気が付けていたら…
相手の気持ちに気が付く事が出来ていたら…ふたりで幸せになれたのに…
でも、もう遅い…
だから俺は幸せになっちゃいけないんだよ…」