第6章 葛藤
楽屋に智くんとふたりきりになった。
なんでニノは俺と智くんをふたりきりにしたの?
やっぱりニノは俺と智くんの過去を知らないんだ…
じゃなきゃ、いくら記憶がなくなったとはいえ、好きだった人に俺のことを任せてなんかいかないだろう。
俺が寂しさに耐えられなくて、何も知らないニノを利用したんだ。
苦しい想いを訴えると智くんは抱きしめてくれて、苦しみの全てを貰うと言う…
なんでそこまでしてくれるの?
振った人間に、そこまで同情しなくていいのに…
そんな優しさは要らないのに…
心の奥底に沈めた想いが浮上する。
智くんに抱きしめられて、ニノに申し訳ない気持ちで抵抗したのに…
こんな状況でも智くんの腕の中に居られることを嬉しく感じてしまう俺は、やっぱり最低な人間だ…
口では離してなんて言ってるけど、心の中では離して欲しくなんてない…
ずっとこのままでいられたら…なんて思ってるんだ。
どうすればいい?
記憶を無くしても、なお求めてしまうこの人への想いを、忘れるなんて出来ない。
そしてニノの事も…
このまま騙したように付き合い続けるなんて、出来ないよ。
今の自分の気持ちをちゃんと伝えなきゃ…
ニノの事は好きだけど、愛してはいないこと…
そして他に好きな人がいること…
他の人を想いながらニノとは付き合えないって…
ニノは傷付くだろうな、俺を恨むかもしれない。
それでもこのまま嘘を吐きながら付き合い続けるよりはいい。
智くんに抱きしめられ、自分の気持ちがはっきりとわかってしまった今
智くんへの想いを断ち切ることは、無理だと知った。
それならば、一度は逃げ出してしまったであろう道に戻ろう…
これから先、俺は誰にも知られないように、智くんのことを想い続けるよ。