第6章 葛藤
「翔くん、ニノとなにかあった?上手くいってないの?」
翔くんは小さく首を横に振る。
「じゃあ何をそんなに悩んでいるの?」
そう聞くと翔くんは顔をあげ俺の顔を見た。
「智くん…俺、ニノと一緒にいていいのかな…
智くんはニノと幸せになってって言ったけど…
ほんとにそれでいいのか…俺、わからないよ…」
潤んだ瞳で俺にすがるように見つめる翔くんが本当に苦しそうでその苦しみから少しでも救ってあげたかった。
「智くん」
思わず翔くんのことを抱きしめてしまった。
俺の腕の中で俺の体を突きはなそうとする翔くん。
「翔くん、ごめん…少しだけこのままでいて?
翔くんは悩む必要ないんだ。
苦しみは全部俺に渡しちゃって?
翔くんはニノに幸せにして貰っていいんだよ…
ニノは本当に翔くんのこと大切に想ってるから」
翔くんの腕から力が抜けた…
「苦しいよ、智くん…
ニノが大切にしてくれてる事はわかってる…
わかってるからこそ苦しいんだよ…
こんな俺がニノに幸せにして貰うなんて、こんな狡い俺が…」
俺を見つめる翔くんの瞳からはとうとう涙が溢れ出した。
「俺はやっぱり最低な人間だ…」
翔くんの小さな呟きが聞こえた。
「翔くん?」
「智くん…離して…これ以上、智くんに触れていたら俺は…」
離してなんて言ってるけど、俺の腕の中から出ていこうとはしない翔くん…
すがるような目で俺を見る君を奪い去れたら…
でもそんな事しちゃいけない…
許されるわけないんだ…
記憶がないから俺をそんな目で見るけど、記憶を取り戻したとき君は後悔する。
君にひどい仕打ちをしてきた俺を再び選んだ事を…
そして誰よりも君の事を大切に思ってくれてるニノを裏切ってしまったと、自分を激しく責めることになるだろう…
君にそんな思いをさせるわけにはいかないんだ…