第6章 葛藤
ふたりが出ていくとニノが立ち上がり俺を見た。
「さてと…俺もちょっと用があるので出てきますね?
大野さん、すみませんけど、翔さんのことみてて貰えますか?」
そう口ではお願いをしているのに、俺を見るニノの目は有無を言わせぬ目をしていた。
「…わかったよ」
「ありがとうございます…じゃあ、翔さんの事、お願いします」
楽屋から出ていくニノの背中を見送り、翔くんの元へと歩いて行った。
俯く翔くんの隣に座ると、翔くんがすっと立ち上がり、どこかへ行こうとする。
だからその手を掴んで引き止め、翔くんの顔を覗き込んだ。
「翔くん?どうしたの?何かあったの?」
泣きそうな顔をして首を横に振る翔くん…
「…何もない…」
「何も無いって顔じゃないよ?」
「…何も無いよ…自分自身の弱さと狡さを知って、情けなくなっただけ…
しかも皆に心配掛けて…
ほんとに何やってんだろうなぁ…俺」
そう言った翔くんの瞳には今にも溢れそうな涙が浮かんで来た。
「翔くんは弱くなんかないよ?
いつでも一所懸命で、辛いことだって耐えて来たじゃん」
「仕事はね…でも、プライベートは駄目だ……
こんなに弱くて狡い人間だなんて、自分でも知らなかった…
俺はなんでこんなことっ…」
翔くんが泣くのを必死に我慢しているのが伝わってくる。
何をそんなに思い詰めてるんだ?
そんな翔くんを、ニノは何故俺に託した?
「翔くん…ここ座って?」
俺の隣をポンポンと叩き、掴んでいた翔くんの手をそっと引っ張った。
翔くんは俯いたまま、ゆっくりと椅子に座った。