第6章 葛藤
「おはよ、あれ?翔くん寝てるの?
また具合悪くなった?」
楽屋に入ってきた潤くんが心配そうに近づいてきて、翔さんの顔を覗き込んだ。
「おはようございます…
具合は悪くないんだけど、ちょっと寝不足っぽかったから休ませた」
「そっか、ならいいんだけど…
ここんところ調子良さそうっていうか
翔くんが記憶なくしてる事感じさせないくらい、リーダーとの関係も前に戻ってきてたじゃん
だから安心してたんだよな」
「そうですね…ほんとに元のふたりに戻ったみたい…」
仕事でも、以前の様に大野さんの言葉足らずのコメントをフォローしたり、発言の少ない大野さんに見事にパスを出す。
それだけだったら良かったのに…
大野さんの横にいる翔さんの笑顔も、あの当時の笑顔に戻ってしまった。
大野さんの隣にいる時だけ見せる、あの穏やかで幸せそうな優しい笑顔…
本人は気がついてないんだろうな…
でも表情って、相当気を付けてないと自然に出ちゃうんだよね。
それこそずっと気を張って演技でもしてないと。
だけどさ、大野さんの側にいるだけで、気が緩んで素の翔さんが出ちゃうんでしょ?
昔から翔さんはそうだった…
いつも張ってる気を、大野さんの前でだけ抜くんだ…
いや、大野さんが抜いてあげてたのか…
やっぱり、どんなことをしても大野さんには勝てないのかなぁ…
さっき膝枕をして頭を撫でた瞬間…
翔さんの顔が一瞬哀しそうに見えたのは、気のせいじゃないよね?
最近、翔さんを抱いていても、どこか違う所に気持ちが行ってしまってるように感じる…
俺に抱かれるのを拒絶するとかではないんだ。
ただ、翔さんが俺を求めてない…
なんだか俺の独り善がりな行為に思えて
終わった後、虚しくなる…