第6章 葛藤
俺は智くんとの約束を守って過去探しをやめた。
でも、今を考えてしまう…
俺はこのままニノと一緒にいていいんだろうか…
智くんと話をして、なんとなくだけどわかってきた。
俺は智くんの事が好きだった…でもフラれて、そしてニノと付き合い出した。
あくまでも俺の推測…でも、当たらずとも遠からずだと思う。
そして、俺が今一番気になってること。
ニノから『愛してる』と告げられても何も感じなかった…
智くんに頭を撫でられただけで胸が締め付けられた…
苦しいのに、でもその苦しみを愛しく感じてしまった…
記憶を無くす前の俺は、智くんへの想いを抱えたままニノと付き合ってたんじゃないか?
智くんを忘れてしまったあの日
俺に何が起きたんだろう…
朝、目覚めた時、ニノに抱かれたのはわかってたんだ。でも、どんな風に夜を過ごしたのかは思い出せなくて…
智くんはニノと幸せになれって言うけど、俺は寂しさを紛らす為に、ニノの事を利用してるんじゃないのか?
そんな失礼なことをニノにしてるのだとしたら、ニノの側にいて幸せになろうだなんて…
「……さん………翔さん」
「えっ?」
持っていた新聞を下ろすと目の前にニノの顔。
「あ、おはよ…ニノ」
「おはよう、どうしたの?翔さん、ぼーっとして
呼んでも気がつかないし。
新聞見てるけど頭に入ってないでしょ?」
「ごめん…ちょっと考え事してて…」
俺の隣に腰を下ろすと心配そうに俺の頬に触れた。
「あまり眠れてない?少し隈が出来てるよ?」
確かにここ数日は寝付きが悪かった…
いくら考えても、答えが見つからない問題を解いてるようで…
「昨日仕事してたら寝るの遅くなっちゃって…」
「そうなの?無理しないでよ?
まだ時間あるし、少し眠れば?」
「ん、そうしようかな…」
「膝枕してあげる…横になって?」
ニノがそう申し出てくれたのに、一瞬躊躇ってしまったのは
智くんのことが頭に浮かんだから…
あの時の手の感触を思い出し、胸が高鳴った。
俺って最低な人間だな…
俺を大切にしてくれてる人を心の中で裏切ってるんだ。