第3章 欠落
翔さんと大野さんの雰囲気が変わった。
翔さんが大野さんとの別れを決めてからそれでも表向きふたりの関係は変わらなかったんだ。
翔さんが大野さんのフォローをする。
それに関しては俺も何も言うつもりはなかった。
プライベートのふたりの関係は終わらせたかったけど、仕事には引き摺りたくなかったから…
だから、大野さんが翔さんを取り戻そうとする動きさえなければその他のことは今まで通りでよかった、というか、今まで通りでいて欲しかった。
単なる肉体関係だけの付き合い、気持ちのない付き合いなら今まで通りでいられるばずだから。
それなのに大野さんは翔さんを意識して、それに釘を差すと翔さんと距離を取ろうとした。
その事が今度は翔さんを変えてしまったんだ。
笑顔しか見せなくなった大野さんに対して、翔さんから笑顔が減った。
笑わなくなった訳じゃない…俺が話しかけるとハッとして俺に微笑みを見せる。
まるでそうしなきゃいけないかの様に慌てて笑顔を張り付ける。
「翔さん、疲れてる?」
「え、なんで?全然そんなことないけど…」
笑顔で答える翔さん。その笑顔は心からの笑顔なの?それとも演技?
「それならいいんだけど、最近ちょっと意識が飛んでることが多いかなって思って」
「あぁ、ごめん…そんなつもりはなかったんだけど、ぼーっとしてた?」
「えぇ、少し…何か考え事?」
「…ううん、違うよ」
首を振って微笑む翔さん。
その微笑みが少し悲しそうに見えるのは気のせいじゃないよな。