第3章 欠落
「大野さん?」
「俺は十年以上も何をしていたんだろうな…」
そう言われて気が付いた。
智くんがやり直したいのは俺と過ごした日々なんだって…
智くんは俺との事を後悔してる?
そりゃそうだ、本来なら抱く必要のない男を抱いて…
俺は智くんの人生に傷を付けた。
俺から無理矢理始めた関係なのに俺が勝手に終わりにした。
被害者は俺じゃない…
俺の我が儘に付き合わされた智くんなんだ。
「ごめんね、大野さん…」
「なんで翔くんが謝るの?謝るのは俺でしょ?」
「大野さんは何も悪くないよ…
全部俺が悪いんだ…
ごめん、人生のやり直しなんて出来ないのに俺のせいで…
どうすればいい?どうすれば大野さんに償える?」
「俺の事はほっといてくれていいよ…
翔くんはニノと幸せになればいい…」
そう言って見せた笑顔はいつもの智くんの笑顔だった。
智くんの願いは俺が他の人と幸せになること…
過去は消せないけど、未来は作れる。
俺は智くんの人生にもう二度と介入しちゃいけないんだ。
間違っても智くんの人生に入り込まないようにニノと一緒に居ろって言ってるんだ。
ごめん…智くん。
もう、俺は智くんの近くで支えることすらしちゃいけないんだね…
「翔くん、俺との事は忘れてね…」
そう言って智くんの頬に触れていた手を掴まれ離された…