第2章 恋心
5人での番組収録の日…
たまたま道が空いていて早くテレビ局に着いた。
何も考えず楽屋に入ると既に翔くんがひとりで新聞を読んでいた。
新聞から視線を上げ俺を見ると笑顔で挨拶をしてくる翔くん。
「おはよ、大野さん。今日は随分早いね」
「はよ…なんか知んないけど道がやたらと空いてて信号も引っ掛からないし、すっげぇ早く着いちゃったよ」
「ふふっ、そうなんだ…早く着いたのになんか不満そうだね?」
「別に不満じゃないけど…」
不満じゃないけど、翔くんとふたりでいたくない。
翔くんといると胸が苦しくなる…
「なんで…」
小さな声で呟いた。そんな声も翔くんは聞き逃さない…
「なに?」
「なんで、『大野さん』?」
「え?」
「あ、ごめん…どうでもいい事だよね…」
ほんとはどうでもいいことじゃない…
きっと翔くんにとっては俺との離別をはっきりと示してるんだ。
俺に『もうあなたとは関係無いんだよ』って…そう突き付けてるんだ。
だけど、それを翔くんの口からは聞きたくなくて、自分から言い出した事なのに話を終わらせた。
もう、翔くんから『智くん』って、呼ばれることもないんだろうな…
あの独特なイントネーション好きだったのに…
離れてから気が付くことが多すぎる…
イチイチ翔くんの好きだった所を知らされて、鈍感だった自分に腹が立つ。
「大野さん?」
心配そうな顔と声…黙り込んだ俺の顔をじっと見ている翔くん。
そんな優しさ見せないでよ…他に大切な人が出来たんでしょ?