第2章 2月30日の来訪者 (2)
「あれ、お取り込み中?」
呑気な声が響く。まるで牛のようなあくびをした上裸の男だ。いたずら小僧のような笑顔でマルコと私を見比べる。
「は、放して!『手、出さない』って言ってた!」
「んなの時と場合によるよい。何年オヤジといると思ってんだ」
「なぁ異世界のお嬢さん。名前なんてぇの。あ、おれは二番隊隊長のエース。以後お見知りおきを」
そばかすの上裸は空気を読まず会話に入ってきて、あぐらをかいたまま武士の挨拶のようなお辞儀をする。なんなんだ。この人たちは。
「わ、私は、どうせすぐいなくなるので、名乗るほどの者ではありません!」
というか助けて。私に触らないで。いやだ。いやなの。視界が白いような黄色いようなピカピカして、体がふらふらして、重力に逆らうことをやめて、そう落下に近い感覚。よっしゃこれで帰れるんだ、とそう思った。やっぱり束の間の夢だったんだ。と。