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【ONE PIECE】 さよなら世界

第2章 2月30日の来訪者 (2)


 甲板にも人は多かった。取っ組み合いのようなことをしているのを除けば海賊船とはとても思えない。おしゃべりしている人。陽に当たりながら昼寝している人。船長が座っていた椅子は空だった。ここでもみなの視線を感じる。あまり関わらないでほしい。こっちを見ないで。隠れられるはずもないのだが隠れるように船縁へ寄る。船に乗り慣れない私にとってはまっすぐ歩くことすら難しい。体がふらふらする。
 この世界の人たちはみな異様に背が高い。船長はおとぎ話に出てくる巨人のようだし、もはや『ヒト』ではないイカのような人もいる。オーケーオーケー。いるよね。魚っぽいヒトも日本語しゃべってるよね。ここは私の世界とは違うのだ。驚きのパラメーターはとっくに振り切れている。だからなにがいいたかったのかというと、船の造りも扉も椅子もテーブルもいちいちスケールがでかいのだ。船縁は私の頭を超えていて、これでは船から海面の高さがわからない。端に寄せてあった木箱に乗ればいけるかも、と木箱に足をかけたところで声をかけられる。
「なにしてんだよい」
 怒っているような呆れているような苛立っているようなどれものような、とにかく先ほどより不機嫌なマルコがいた。
「ずいぶんと長いトイレじゃねぇか」
 普段から座った目はますます硬い。監視したいなら繋いでおけばいいのに。マルコはフッと鼻で笑い、「誰かさんも似たようなこと言ってたなぁ」と五メートルほど離れたところで昼寝している男を見やる。私の口先のつぶやきを聞き取るなんて……。マルコは持ちなおすように言う。
「言っておくが、この船から海に落ちても死なねぇよい」
 意味が分からなかった。この高さ、海の不気味さ、すくなくとも無事ではないだろう。
「あんたはもう家族だ。海に落ちたら全力で助ける。夜中だろうとな。幸いこの船には泳ぎの得意な奴らがわんさかいるんだよい」
 死なないかもしれないけど、帰れるかもしれない。
 間合いを詰めてくる。距離を取りたいがなぜか私の足はいうことをきかない。そのとき横から盛大な牛の鳴き声がした。一瞬そちらに気を取られた隙に、パシッとマルコに腕を取られへりから引き剥がされる。バランスを崩した私はマルコに体当りするが、彼はびくともしない。慌てて離れるも私の右腕はしっかり掴まれたままだ。

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