第16章 リアル非充実 (4)
朝のイゾウ姐にはできるだけ関わらないようにしよう。マグを二つ持って席に戻ると、マルコが眉間に皺を寄せてなにか言っていた。そこにエースが加わり、イゾウ姐の隣に座ると、まだ誰も手をつけてなかった大皿料理を次々と崩していく。
朝からイゾウにチビかよ。こりゃ槍でも降るんじゃね?
エース、いいところに来たな。で、だ。この眠り姫はこの俺を誰と間違えたか?
んー、サーシャ?
バカ。んなの、なんもおもしろかねぇ。マルコだよ。
マジ?
しかも呼び捨てだからな。『マルコ?』って。
おえっ。朝からごっつぁんです。
「あ、あの! なんの話を、されているのでしょう……」
「だーかーら、俺があんたの部屋にまで行ってやったのに相変わらず寝てて、寝ぼけながら俺をマルコと呼んだって話だろうが。覚えてねぇのか」
待て待て。
「わっ、わ、私の部屋にいらっしゃったんですか」
たしかに私の部屋には鍵なんてかからない。たとえあったとしても、トイレを扉ごと破壊された経験のある私はこの人たちにとって鍵など些細な存在でしかないことを知っている。とはいえ、人が入ってきたことにさえ気付けずに寝ていた私を殴りたい。
「イゾウは気配を消すのがうまいからねい。には気付けなくてもおかしくないよい」
「いや、そこをフォローされても……」
「べつに気配殺してなかったけどな。そんなことしたら変態だろうが。ああ、安心しよし。俺ぁ、寝込みを襲う趣味はないさね。そもそも女には勃たねぇ」
凍りついた。
「なんだ、知らなかったか」
「チビは鈍いなー」
とっさに隣を見あげるが、マルコはパンをかじりながら今日の新聞を読み始めている。
「っつうか、あんたの世界にはいねぇのか、男色。ゲイ。わかるか?」
「わ、わかりますとも」
そこに驚いたのではなく、いまが朝の八時前でここは朝日の降り注ぐ食堂だということだ。ふーん、どの世界にもいるんだな、なんてイゾウ姐は感心している。
言っておくけど、俺もチビには勃たねぇ自信ある。
盛り時のくせに意地張るなよ。
いや俺はもっと『ザ・女!』じゃないと。
エースのそういうとこ、わりとサッチと被るよな。