第16章 リアル非充実 (4)
あー、また遠い。
でもこの遠さは知っている。私の世界でもよくあったことだ。誰が好きとか、誰がかっこいいとか、告白しようかどうしようかとか。高校までは私もついていけてたけど、『あの時』以降は、そういう話題になる度に私と周りの間には大きな水槽があるみたいに遠かった。言葉の意味はわかっても理解ができない。
隣で新聞を読み話題に乗らないマルコも水槽のこっち側にいるんじゃないかと思え、むしろそのマルコが水槽のあっち側に行くときはどんなふうなんだろうと想像してみるがうまくいかない。今度、酒場で女をメロメロにさせているマルコを見てみたい。
「こらこらこらこら」
サッチが青筋立てて厨房から出てきた。お玉を握ったままだ。
「おめぇら朝っぱらからなんて話してんだ。ちゃん固まっちゃってんだろ。ウブなちゃんの反応で楽しまないのっ」
「来たな。地獄耳サッチ」
「…………い、いえ、私はそもそも、性欲とか恋愛感情とか、よくわからなくて、なんていうか、みなさんが眩しいです」
イゾウ姐はりんごを丸かじりしながら言う。
「いままでは、ってことだろ。お嬢が餌付けしてる鳥が王子に化けるかもしんねぇぜ」
イゾウはにやりと笑っている。
「あーたしかに私がいまぞっこんなのは不死鳥ですね」
突然、隣のマルコがコーヒーを吹き出した。激しくむせっている。イゾウ、エース、サッチはそんなマルコを見て大爆笑だ。
「麺つゆでしたか?!」
マルコはぶんぶん首を横に振った。