第16章 リアル非充実 (4)
「イゾウ姐さん、そのケガどうされたんですか」
「黙れクソガキ」
その言葉と視線の切れ味に心臓が縮みあがる。マルコが笑う。
「こいつはいつも寝起き悪いんだ。気にすんなよい」
「うっせ。ほらさっさとやるぞ。朝だしだから水でいいよな」
なにを。クエッションを飛ばす私。
隣のマルコが説明してくれる。白ひげ海賊団の仲直りの儀式だそうだ。グラスやお猪口なんでもいいのだが本来は酒を注ぎあい、カチリと乾杯してから、腕を交差し知恵の輪を作るように組んでその酒を飲み干す。
よくわかったけれど。
「あんた初めてか。ったく、喧嘩の一つや二つしとけよ」
「でもどうしてイゾウ姐さんと私が……」
「奇遇だな。俺も同じこと思ってらぁ。だが、どうでもこうでも、やる。それが儀式ってもんさね。証人、マルコか。っち、仕方ねぇな。」
私は訳もわからないまま立ち上がり言われたとおりにぎこちなく動いた。マルコはなんだか楽しそうに見物している。
「遺恨なし!」
飲み干すと同時にイゾウ姐が言うのでとりあえず私も言っておく。
「い、いこん? なし」
いつのまにか食堂のみなに注目されていて、数人に拍手までされた。恥ずかしい。私はマルコの隣に座り直してあらためて言う。
「でも私、本当に遺恨なんてないですよ」
イゾウ姐はバツが悪そうにしてコーヒーを取りにいった。マルコがそっと言う。
「おまえさんに銃の使い方を教えたのはイゾウだろい?」
そうだった。動力室で暇を持て余した彼は、本物の銃を見たのはこの世界に来てからだという私をおもしろがって、私に銃を持たせた。それはいけないことだったのか。しかしそのことと私が甲板で行ったことは関係ないはずだ。イゾウ姐のあの痣はすると船長さんに殴られたものなのか。
「しけた面でこっち見んな。コーヒーぶっかけるぞ」
「わ、わ、私もコーヒー取ってきます。マルコさんは?」
「ああ、頼む」