第15章 リアル非充実 (3)
俺は人の涙に弱くはない。そのことでサッチに冷血漢と怒られたことも一度や二度ではない。泣くのは悪いことではない。しかし涙というのは流している本人も流させた相手もあるいは慰める奴も容易に酔えることができてしまう。そうすると隠れて気付けなくなるものに俺は敏感でいたいのだ。俺は優しくなんかない。
ただ、ポポロ島の丘で泣きじゃくったを目の当たりにしたときは戸惑った。鳥を相手に媚びるはずなどなく、ひたすら無防備。うっかり触らせてしまったことはもちろん誰にも言ってない。けれどいま、の隣にいる俺は人間のオスだ。だからが俺に腕を伸ばしてくることはありえないし、声をあげて泣きじゃくるよりずっと苦しそうに耐えて泣いている。
一瞬なんだかむかついて、むかついた自分にむかついた。
『そいつのそばを離れるな』とオヤジに言われた声が脳内で木霊する。あれは二月の末だった。
いつまで有効ととらえればいい? 華部屋に入れた時点で俺はもう任命から解放されたのか? まだなのか? しかし四六時中一緒にいるのは根本的に無理だ。首輪をつけて繋いでおくわけにはいかない。じゃあどうしたらいい? どうしたらを守れる?
わからない。
疲れた。戦闘そのものよりずっと疲れて、俺は船縁に背中を預けて上を仰ぎ見る。すると投げ出していた俺の手に手が重なった。あまりにも予想外だったのでまるでのように反射的に手を引っ込めようとするのを、堪えた。ロマンチックな重ね方ではない。藁にもすがるようなそんな強さだ。
俯いたままくぐもった声が聞こえてきた。