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【ONE PIECE】 さよなら世界

第15章 リアル非充実 (3)


 は目を閉じて無表情にそれを構える。自分の米神にだ。
 俺の体は勝手に動いていた。
 引き金を引くのが先か、俺が蹴り飛ばすのが先か。この距離では五分かもしれない。バタバタと意識を飛ばす者や腰を抜かす者たち。俺の動線上にいた奴らは俺が押しのけたせいかもしれない。でも大半はオヤジだろう。オヤジが戦闘中には出さなかった覇王色の覇気を無選別に全開にしてその名を吠えた。
「っ!」
 パァンと一丁前の音をたてて、の体が後ろに倒れる。注意深く見ていなかった者は間に合わなかったと判断してもおかしくない。だがは無傷だ。そう簡単に死なせてたまるか。
 船が静まりかえる。は雪原に放り出された子犬のようにガタガタと震え、歯の定位置も見失ったかのようにカチカチと鳴らす。
「親の目の前で頭ぶち抜こうとする奴がどこにいる! このアホンダラァ!」
 オヤジのマジギレに意識ある隊員たちも震え上がる。
「死ねば、もとの世界に帰れるとでも思ったのかよい」
 俺の声は掠れていた。
 冷や汗が出る。死なせるわけにはいかない。ましてやオヤジの前で。
 俺は銃を奪いとり、を立たせようとするが腰が抜けていた。近づいてきたオヤジがを見おろす。もう覇気は出していない。はいまだ震えながらもまっすぐオヤジを見据えた。その目に涙がたまっていてもおかしくないのに、乾いた深い井戸の穴のようだ。
「俺はおまえを娘にすると決めた。だが、どうしても帰りてぇというなら……ちゃんと俺に見送らせろ。こんなやり方は認めねぇ」
 引っ張りあげてを抱擁する。ぴたと震えが止まる。
「こんな小せぇ体で背負いやがって。もっと甘えろバカ娘」
 言い残してオヤジは船内に入っていく。それを合図に隊員たちも散りはじめるが、みなをちらちらと気にしている。なかでもエースはじっと伺っていたが、サッチに声をかけられ入っていった。
 は座り込み、膝を抱きかかえてうずくまっている。オヤジの覇気をまともに浴びながらも意識があっただけあっぱれだ。顔は腕と膝に埋もれて見えない。声を殺して泣いている。
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