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【ONE PIECE】 さよなら世界

第14章 リアル非充実(2)


 するとそう遠くないところに座っていたイゾウ姐はふらりと立ち上がり、氷点下の剣幕で「誰の許しあってそう呼んでんだ?」と凄んだ。
 厨房から飛び出てきたのはサッチで、「サーシャ! おまっ相手考えろよ。イゾウ、おまえも、喧嘩はマルコへの売り専門だろ。女の挑発に乗るなんてどうしたんだよ」と二人の間に入って仲裁している。
 ダリアとエースは皿を投げ合わんばかりに喧嘩していて、ピエールは厨房から心配そうに眺めるだけで、他の人たちは諫めるどころか盛り上げ、十六番隊の音楽家たちはこの状況にふさわしいBGMをとか言って手持ちの楽器や皿を叩き始めた。
 食堂はカオス状態だ。キャットは私に耳打ちをした。
「あの方を呼んできて。そこの通路から大声で呼べば聞こえるはずよ」
 私は頷き、急ぐ。大きな声を出すのは一人カラオケのときくらいだったが、いまは非常事態だ。その名を叫ぶ。
「エドワードォォ・ニューゲェーートォォォ!!」
 耳を澄ませば船内の奥から「グララララ」と聞きなれた笑い声がする。よかった。届いた。
 振り返ると食堂はしんとしていた。みなが私を見てくる。あれ、なんかまずかったかな。
「おまえっこれくらいでオヤジを呼ぶなよ」まっさきに沈黙を破ったのはエース。「敵以外でオヤジの名前を叫ぶ奴ぁ、久しぶりだな」そう言うのはイゾウ姐。キャットはぽかんとしているし、サッチは「呼ぶならマルコだろうが!」と言い、「船長さんの名前知ってたのね」と言うサーシャに「ってか『オヤジ』と呼びなさいよっ」と突っ込むのはダリアだ。ラクヨウたちは、オヤジとマルコとどっちが先に食堂に来るかで賭け始めている。
 このときから予兆はあって、食堂全体を見渡しながらまるで自分だけいないような、夢でも見ているような、あるいはすべてスクリーンの向こう側のことにすぎなくて私の目はそれを映しているカメラのような、つまり、私と、世界は、遠かった。はじめのころはそんなことを感じる余裕もなくて、だから、ある意味では慣れてきた証拠なのだろう。なんて感傷めいて突っ立っていると、ぺしっとマルコに頭をはたかれた。「何事だよい」と据わった目で食堂を見渡す彼を見て、ああマルコさんも一人なのかもしれないな、なんて場違いな感想が浮かぶ。
 本当の非常事態があったのはその数日後のことだった。
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