第13章 リアル非充実(1)
「……俺だ」
大丈夫かこいつ。
「あ、知ってます……ここに誰かいらっしゃるのって初めてだったもので、つい……すみません」
あからさまに動揺している。隠し事のできない奴。
「それよりこれは?」
床におおかたの本が積み上げられている。問いつめたつもりはないのに先ほどとはちがう勢いと動揺でしきりに謝り「船長さんの許可はいただいたのですが」と言うが、オヤジはほとんど本は読まないし、そもそもこの書庫はオヤジの入れる天井高ではない。
「あー怒ってねぇよい。整理してくれてんだろい」
「はい……ジャンルでざっと分けて、著者名の五十音順にしようかと……勝手にすみません」
これは、あれだ。例えば戦闘のときや巨大な猛獣を数人で仕留めるとき、欲しいタイミングで欲しい一撃をくれると爽快なうえに士気もぐっと高まる。これはそれだ。グラスを磨き上げることもそうだったがどうもは俺のツボをついてくる。やりたくても優先順位を上げられなかったことをかといって誰かに指示するまでのことでもなかったことを、はそっと拾っていく。やってくれるねぇぃ。
人差し指を突き出しての鼻を押し上げた。
「わっ。ひどっ。やっぱ私、ブタですか?!」
「ありがとよい」
目を瞬いて驚いたように俺を見あげる。なんだ。
「……よかったです」
そう言ってはにかんだように俯いて笑うから調子が狂う。
「ほらさっさと片付けるよい」
「あ、いや、そんな隊長ともあろう方にやっていただくのは……」
こういうのは無視だ。どうもはこの海賊団を規律の厳しい軍か会社かのように想定しがちで、そうかしこまれられると俺はともかくやりづらそうにしているクルーもいる。
他愛もない話をしながら作業していく。
俺は学術書を読むこと。はこの世界に来るまでは小説をよく読んでいたということ。でもこちらへ来てからはまだそんな余裕はないということ(先ほど食い入るように読んでいた本については触れないことにする)。俺はその島の著者が書いた小説なら滞在中に読むこともあるがファンタジーや恋愛ものには興味がないこと。はそれらもよく読んでいたということ。だったら俺の隊のぺペロンは詳しいから自分の蔵書も持っているだろうということ。