第13章 リアル非充実(1)
「言ったよ。けどあいつって、一度頭に血が上るとなかなか冷めねぇんだよ。あーだからさ、しばらくちゃんを食堂の手伝いから離してやってくんね?」
そうだ、それがいい、とサッチは言いながら納得している。
「……サッチ。よく考えろ。痴話げんかに巻き込まれては、築いてきた居場所からはじかれるのかよい」
サッチは苦い顔をする。知らないのか。
「サーシャは医者の勉強も始めるんだろい」
「は? 初耳ですけど。なんでマルコがんなこと知ってんだよ」
「Dr.フウから聞いた」
サッチはサーシャを嫉妬深いというが俺からしたらお互い様だ。それに二人とも……。
「医者って、あいつ、ちゃんのため……?」
「さぁ」
俺にはよくわからない。なにがって、サッチとサーシャの関係だ。いわゆる恋人同士なのだろう。そう公言している。
しかし、なぜ、契約するのだ。とくにサッチは根が親切で(相手が女ならなおさらのこと)、その場のノリにも付き合うタイプだからつまり、浮気もすくなくない。今回の件は浮気ではないにしろサッチの言い分もわかるし、サーシャの嫉妬もわかる。
いや、わかるといいつつ俺は心底ではわかってないのだろう。恋人という契約をするからそういうことになるのだ。二人とも互いに束縛し合っているようにみえる。
まぁ、サッチは気象学に関心がないように、俺はポポロ島のリンゴとアッポー島のアップルの違いに興味がないように、俺は好いた惚れたにも関心がない。それだけだ。
明くる日、書庫にはがいた。サッチになにか言われたからなのかどうかはわからない。まぁ、珍しくはない。書庫がのシェルターのようになっているのは知っている。扉はいつも開け放しているからだ。本を読んでいることはなく、踏台に腰かけて窓から外をぼんやり眺めていた。一人になりたいときくらい誰にでもある。またあるときは本の匂いをしきりに嗅いでいたので書庫への用事は後回しにして素通りした。
今日はちがう。
「これは……?」
は小さく息を飲んでいまのいままで読んでいた本を勢いよく閉じた。エロ本の立ち読みを見つかった小僧か。
タイトル『世界の名水百選!』
ポポロ島で不死鳥に『あんな水、飲まなきゃよかった』と零していたことを思い出す。
「初めまして!」