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【ONE PIECE】 さよなら世界

第12章 それは、不死鳥 (5)


 街側のベンチに座る。初夏の温い風が吹く。日が暮れる。星が出はじめる。
 こちらへ近づいてくる男の声がして私は我に返った。丘と街を繋ぐ道は一つだ。どうしたってすれ違うのは避けられない。街を見おろしている分には明るかったが、丘の道は明かり一つなく暗かった。しまった。いつも夕暮れまでには船に戻っていたのに。声はどんどん近づいてくる。私は紙袋を胸に抱きしめて息を殺した。
「おーい、チビー、いるかー? 返事しろー」
「エース!」
 私は叫んだ。
「あ、いたいた。ったく、おまえちっとも帰ってこねぇんだもん。な、マルコ?」
「よい」
 なぜエースは今朝あんなに怒っていたのか正直わからない。でもよかった。いまはもうキレてない。相変わらず気怠げなマルコは私がいままで座っていたベンチにどかっと腰を降ろし首を鳴らす。私はマルコの前に立つ。
「あ、あの、私いろいろ考えたんですが、やっぱり、この島に、その、……残ろうと思いまして……」
 ちゃんと言おうと思ったのに、マルコの目が存外柔らかくて言葉はどんどんしぼんでいった。紙袋を再度抱きしめる。エースはベンチの背もたれに腰かけ笑う。
「そんな顔で言われても、説得力ねぇよい」
「で、でも検査は……」
「心配ねぇって! オヤジの目利きは確かだから。この俺が言うんだ間違いねぇ」
「ったく言うようになったよい」
「ほら早く帰ろうぜ。俺、腹減った」
 私はこの人たちと航海を続ける。いい? のか? それで。迷うよりも安堵していることが答えだ。
 慌てて紙袋から飴玉の入った小さな瓶を取り出し、飴を無造作に紙袋の中にあける。その瓶に酒をたっぷり注いでベンチに置いた。できればお猪口に入れたいけど、このお猪口はイゾウ姐さんに返さなくちゃ。
「なにしてんだおまえ?」
 エースがきょとんとしてる。マルコは私が紙袋に入れていた求人情報をいつのまにか取り出して読んでいた。
「このお酒、不死鳥さんの好物なんです。明日も期待してここに来るといけないから、せめてこれだけでもお餞別にと思って……」
「あ、そう。……っぷ。ぷぷっ。いや、わりぃ、ごめん、でも、っぷ。む、無理っっぶははっはっははは!」
 エースは笑い転げた。
「しぬー! 笑いじぬ! おまえ最高!」
 
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