第12章 それは、不死鳥 (5)
「走りやすーい! すごいすごい。これね、このスニーカー、昨日、マルコが買ってくれたの。このシャツも。メンズだよ。私はお古でいいって言ったんだけど。マルコとは服の趣味が合うんだ。ふふふ。おもしろい人」
私はいくらでも走れるような気がした。体育は大嫌いだった。地球ではいくら走っても手と足が思うように動かなかったのに、ここでは自分が思っている以上に地を蹴って前に行ける。もしかしたら重力が違うのかもしれない。まぁそんなこと確かめようもないけれど。
「あははは。私、異世界適応能力やばいと思う。もうっ、誰か褒めてー」
私の体は大丈夫なのだろうか。私の味覚と嗅覚はだんだんわかるようになっていくのだろうか。それよりも”この世界の人たちにとって”私の体は大丈夫なのだろうか。
ばたばたっと羽音がして振り返れば鳥は飛び去っていた。ちょっと! つくづく愛想ないなぁ。会えるのは今日で最後かもしれないのに。
いつ、私はもとの世界に帰れるのだろう。
検索ワードは「世界」「帰り方」かな。んなアホな。じゃああれだ、「飲める温泉」「異世界」でどうだろう。「井戸」もプラスする? ってネットがないじゃん! あはははは。まぁ、とにかく井戸、かなぁ。もとの世界に戻るにはそれっぽい井戸を見つけること。仮説。であるならば、海賊船だろうと乗り込んでいろんな島で探せるほうがいい。くまなく探したわけではないけどそれっぽい井戸のないポポロ島に残るということは、もとの世界に帰ることを諦めることになる。
けれども白ひげ海賊団にとって私はただのお荷物なのは事実。ここは自分から「船を降りる」と言うべきなのだろうか。もしかしたら船長もマルコもほかのクルーも内心では「なんて身の程知らずで図々しい」と思っているんじゃないか。だから身体検査をして「ほらね、こんな人間とは航海できないよねさようなら」ということにしたいんじゃないか。そこを無理強いして乗せてほしいと言う覚悟が私には……あるだろうか。