第2章 2月30日の来訪者 (2)
そこはマルコの部屋らしい。小さな本棚。大きなベッド。しっかりしたデスク。物は少なく書類は多い。洋服箪笥を漁りながらマルコが言った。
「男装が趣味かい?」
「…………」
「いや、普段から女装している仲間がいるからよい、おまえもそうなのかと……」
女装の海賊? マルコはバツが悪そうに濁して「待ってろよい」とどこかへ行ってしまった。しばらくしてマルコは紙袋とシーツを脇に抱えて戻ってきた。袋にはどれも露出度の高い女物の服と下着が入っていた。マルコは自分のシャツや短パンも適当にベッドに並べて好きなほうを選べという。女物の下着はその女装男性が使っている物なのかと問えば、目をぱちくりさせて一拍後弾けたように笑う。目の据わっている印象があったからギャップはすごかった。この船には女性も乗っていてナースをしているのだと説明される。「おまえの服は燃えそうだから、下着もひとまず全部着替えろよい」とマルコはいったん部屋の外へ出て、済んだら開けろという。意外と紳士な感じがする。私は男装が趣味なのではなく、体のラインが分かる服が嫌なのであって、だからピチピチサイズのドット柄シャツとレッドワイン色の男物のシャツの二択であれば後者。マルコにとっては短パンなのだろうが、私が履くと8分丈だ。マルコの服を着た私を見て彼は苦笑した。意外と笑う人なのかもしれない。
私が着ていた服一式をどうするかが問題だった。パンツ、Gパン、ベルト、靴下、スニーカー。
「これは預かるよい。船内火災になると厄介だ」
パンツまで預けるのは嫌だったけど拒否権はないようだ。完全防水の箱に入れて、どこかへ持っていくのかと思いきや、無造作に洋服ダンスの一角に置いた。そしてマルコはてきぱきとベッドのシーツ交換をし始める。私は今後の展開を予想して壁を背に小さく震えていた。手を止めずに彼は言う。
「べつに獲って食わねぇから安心しろい」
口ではなんとでも言える。