第2章 2月30日の来訪者 (2)
【♀】
異世界に来た。それも海賊船のど真ん中。勘弁してほしい。自他ともに認める男嫌いの私が九五パーセント男たちの海賊船? マジで? 夢だよね。これは悪夢ですよね?
船長室で尋問された。拷問でも強姦でもない。三番隊隊長のジョズという人もいたが、しきっていたのはほとんど一番隊隊長のマルコという人で、船長はところどころで口を挟むくらいだった。
『異世界』
そうとしか呼べない。船長もマルコもジョズも「さすがグランドラインだな」「こんなこともあるとはねい」とどことなく呑気だ。
待て待て。どうしてそんなに落ち着いてるんですか。ありえないでしょ。もっと慌てふためいたり腰抜かすところじゃないの? だって私、『グランドライン』を知らなかったんだよ。それって『太平洋』を知らない人みたいなことでしょ。どうしてこんな小娘の話を信じる? いや嘘はなにも言ってないよもちろん。でも人間が空から降ってくるってやばくない? 警察に通報したりしなくていいの? あ、あなたたち海賊か。ってか、海賊って……。これはファンタジーなの? SFなの?
そんな思いは口にすることはなく最低限の受け答えだけをかろうじてすませる。震えが止まらないのだ。なんていっても今の私は上裸にマルコのコートを羽織った格好で落ち着くはずもなくひたすらコートを前でかき集めている。それにどういう仕掛けか知らないけど、私の服はさっき目の前で捨てられて海の上で燃えていた。マジック? 魔法? もしかしてこのジーンズも燃えるの?
私だっていろいろ聞きたかったのに、船長は「マルコからおいおい聞け」と言われて部屋を出される。扉のそばには聞き耳立ててました! とばればれの人たちが何人もいて、なぜかマルコもジョズも驚かない。みんな興味津々な様子で私を覗き込んでくる。こ、こわい。近寄らないで。さり気なくマルコが盾になってくれたような気がする。気のせいかもしれない。
マルコとジョズは言葉少なになにかを決めたみたいだった。ジョズが盗み聞きしていた人たちを率いていき、マルコをちらりと見上げれば私の問いが通じたようで「おまえはこっちだよい」と連行された。