• テキストサイズ

【ONE PIECE】 さよなら世界

第12章 それは、不死鳥 (5)


 涙は拭っても拭っても出てきた。こんなに泣いたらあとで目が腫れるし疲れるだけなのに、泣いたってどうにもならないことばかりなのに、それでも涙は止まらない。私はベンチの上で三角座りをして左腕で脚を抱える。不死鳥はいつも低木の上にいるのに今日はなぜかベンチから離れなかった。
 右手を鳥に手を伸ばしてみる。炎のように見えるそれは触れても熱くはなかった。ザ・ミラクル。それでも生き物の体温がある。羽毛よりずっと軽やかだけれど実態がないわけではなく、いままで触れてきた物のどれにもあてはまらないような感触だった。もっとよく見たいのに涙で視界がぼやけてしまう。不死鳥はされるがままにじっとしていた。
「おまえはいいねぇ。独りぼっちじゃないもんね。よしよし。マルコにいじめられてない? すくなくともさ、船長さんとイゾウ姐さんはおまえの味方だよ。よかったねぇ。…………私も、帰りたいな。お母さん、元気かな。心配してるだろうな。あんな水、飲まなきゃよかった……。この私がだよ、男ばっかの海賊にお世話になってるなんて知ったら、びっくりするだろうな」
 帰りたいと泣きじゃくって、これじゃあ迷子の子どもだ。隣にいるのが鳥でよかった。不死鳥はべつに気持ちよさそうでもなかったが、おとなしく私に撫でられていた。
 不死鳥がこちらを見てくるので空になったお猪口に注ぐ。ふと私も飲んでみようと思った。気付けだ。イゾウ姐はちゃんとお猪口を二つ用意してくれた。一つでいいって言ったのに。ほんの一口だ。こんなに高い度数をそう飲めるはずがないんだから。相変わらず味らしきものはわからない。
「ちぇっ。どうせ私はよそ者だよい。ははは。マルコ語! あ、心配しないで。これ以上は飲まないから、ちゃんときみの分はありますよ」
 私は持ち歩いていた飴を舐める。私の食が細いのを心配してサッチが持たせてくれた瓶に入った飴玉。
 ふと思い立って丘の上を軽く走ってみた。

/ 86ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp