• テキストサイズ

【ONE PIECE】 さよなら世界

第12章 それは、不死鳥 (5)


【♀】

 もう通い慣れた丘への道。いつものベンチが見えてきたとき「あっ」と声が出る。すでに不死鳥がベンチにいた。こんなことは初めてだ。いつだって私が先にいてぼうっと待っているとふわりとどこからともなく飛んでくるのに今日は逆。
 私は駆け寄った。
「嬉しい! 待っててくれたの? もしかして昨日の雨の中もいた? ごめんね。来れなくて。今日は朝からバタバタしててさ。けどね、きみにスペシャルな物、持ってきたよ。ふふふふ。じゃーん」
 イゾウ姐が持たせてくれたボトルを見せる。この鳥はパン屑も野菜の切れ端も木の実も食べてはくれなかった。私があげるものをことごとく無視する愛想のなさ。だから餌を期待して来ているわけではないだろうになぜか私がいると必ず降りてきた。変な鳥だ。不死鳥の好物だといってイゾウ姐にウィスキーを渡されたときは目を疑った。酒好きの鳥なんて聞いたことがないけど、いやはやこれも私の世界観が狭いだけで、いろんな鳥がいるということなのだろう。そうしておこう。
「私、お酒って全然わかんないけどなんか瓶の感じからしてこれ、高い物なんじゃないかな。すごいね。よかったねぇ」
 イゾウ姐が用意してくれたお猪口に零さないように注ぐ。
「はい、どーぞ」
 お猪口をベンチに置くと不死鳥はすこしためらうようにお猪口を覗き、そして、飲んだ。
「ぎょえ! マジか! イゾウ姐さんの言ってたこと本当だった。これ、好きなの? もっと飲む?」
 顔をあげた鳥の表情を勝手に解釈しておかわりを入れる。
「きみ、大丈夫なの? だってこれまあまあ度数高いし、そのまま飲んでるけど……。あとでマルコに怒られるのやだよ。『おい! おめぇひとんちの鳥になにしてくれてんだよい』とかって。はははっはは! ま、いっか。どうせたぶんあの船、降ろされるし。おまえは? 船と一緒に飛んでくの? この島でお留守番? ここにいなよ。一緒にいようよ。だぁいじょうぶ。なんとかなるよ。さっきここに来る前に求人情報をいくつか仕入れてきてさ。ほら、パン屋とかポポロリング専門店とかこれだけあればどっかしら働けるでしょうよ。だいじょうぶ、だいじょうぶ。あれ、なんかやだな。今日は朝から泣いちゃったからスイッチが入っちゃってんだな。あははは」
/ 86ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp